日本には美しい四季があります。変化に富んだ野山や川や海や島は
日本固有の財産でさまざまな生きものたちを育んできました。

 そして、わが故郷「滋賀県」は海こそないが「マザーレイク」と呼
ぶ日本一の太湖「びわ湖」が中央に広がっています。
また、湖北には古典文学や和歌に登場し、日本百名山の一つ「伊吹山」
があります。この湖と山は本州がくびれる中央にあり、太平洋と日本
海がもっとも接近する位置にあることから、両側の気流の影響を受け
特異な自然環境を造り出しています。

■伊吹山とびわ湖に魅せられ「自然観察」
 私が薦める自然観察は「野生の自然」です。花も鳥も動物たちも、
人の都合にあわせて品種改良されたり、都合良く飼育されたものでは
なく、毎日を命がけで生きている生きものたちです。
 そして、大切なことはこれらとの出逢いを「愛でる」だけでなく、
どのような環境で育まれているのか、昨年見た時と変わっていないか、
じっくり観察し、もし悪くなっていたり,見られなくなったりしたら、
どうしてだろうか、など考えるのが私が薦める「自然観察」です。

◎ただ、ここ二・三十年前から、自然環境は超スピードで劣化し、
 多くの種類の植物や動物などの生きものたちが絶滅の危機に立た
 されています。
 私たちが今できることは何か、考えるのも自然観察です。
                          筒井杏正






Vol.1
山頂に咲く春の花と登山道崩壊のその後



2024年4月28日(日)
新緑の伊吹山打ライブウェイを走り
てくてく山頂へ自然観察

よく晴れた朝を迎えました。滋賀県は24℃の夏日となる予報。10時ころ、伊吹山ドライブウェイゲートを出発。走る山腹の新緑が眩しい。淡いピンクのヤマザクラは満開、白いブラ以上の花はアオダモ、ウワミズザクラも咲いています。山腹はいよいよ本格的な春を迎えます。

ゴールデンウィークの初日で、しかも天気は上々とあって11時頃の山頂駐車場はマイカーにあふれ、そのほとんどが子ども連れのファミリーたちでした。

 アマナ(甘菜)が見頃
これからは ニリンソウ
です。

 ↓これからどんどん咲き出します
 でも、これらは小さな花ですが
 すべて希少な植物です。

ショウジョウバカマ
和名は、赤い花と葉の広がりから「能」で舞う酒飲みの猩々に似ることからだそうです。

 しばしば葉の先に
 小苗をつけます。
 見つけてください。

  ニリンソウウ 3合目や山麓では、すでに満開を過ぎ
  ていますが、山頂は、5月から主役の花となります。
  特に山頂から東登山道の群生はみごとです。
 キバナノアマナ
とても希少な
植物です。
ヤマエンゴサク
あちこちに咲く
面白い形ですね。
ツルキジムシロ
枝葉の形がキジの
クッションに似る。

 ←ヤマガラシ:山に咲く在来の植物で
 平地に咲く菜の花に似ています。


ハルザキヤマガラシ→ 

 伊吹山ドライブウェイの沿道に咲いて
 いるヨーロッパが原産の外来種です。
 最近、この花が山頂に侵入し、勢力を
 のばしています。

1.外来植物の侵入

← 2つの菜の花のは、日本の在来種とヨーロッパからきた外来種です。今、外来種が伊吹山の山頂へ侵入しています。すると伊吹山の自然環境にどのような影響をもたらすでしょうか?

◎伊吹山に侵入する外来植物 → 


 伊吹山頂周辺の春は、まだ始まったばかり。一見、開花して目立つ花は、少ないです。

← 西登山道の中間地点から北方を望む

伊吹山の
2.ニホンジカの食害は十数年前から始まり、
その被害は凄まじいものがあります。 
昨夏の豪雨による滋賀県側登山道の崩壊は、
今なお、復旧ならず入山禁止となっています。
その根底にある要因は、シカの食害なのです。
さらに突き詰めれば、地球の温暖化、気候変動など
複合的な要因で自然遷移が加速しているのかも知れません。


 メスジカです。今日も山頂駐車場
 の間近の山林に現れました。
 6月頃に出産するかも知れません。
 あまり人を恐れる様子もありません。

 右の写真はシカの侵入を防ぐネットです。→
 この広い山頂一帯を張りめぐらすため置かれていますが
 その作業は、とてつもない労力が必要とされます。
 このことを思うと、自然を守る大切さが身にしみます。

3.シカが嫌う植物の繁茂

← 今日、撮った写真でネットの外側にある植物が食害
  を受けていません。茂っているのはシカ嫌う
  
マルバダケブキだからです。

右写真は夏です。中央のネットの外側は手前です。 →
上が内側です。この頃外側はシカの食害を受けて   
草丈は短いです。左右写真の内外は逆ですがシカ   
が嫌う植物は、害がなく繁茂し続けます。外側で   
 茂っている植物は何か調べるのも、自然観察。  
  
 



昨年7月12日の集中豪雨による南側斜面の崩壊から


山頂から崩壊した登山道を望む(2024.04.28)
写真は、
現在の登山道を
←山頂と向かいの
霊仙山→から
撮影したもの
山道が寸断され
周りの山腹でも
土砂崩れが目立つ

霊仙山から伊吹山を望む(2024.5.5)撮影:藤本秀弘


 伊吹山は、そもそも以前から山体崩壊を起こしているといわれます。
  藤本秀弘氏レfポート = 「伊吹山崩壊と姉川地震」    →    「2023.7発生 伊吹山崩壊の考察」

山門水源の森」フィールドレポート報告書(報告日:2024年5月6日から)  ※藤本氏の許諾のもと掲載

 霊仙山にシカの食害観察に登頂された藤本秀弘氏は「山門水源の森」フィールドレポート報告書の中で「霊仙山山頂部と伊吹山山頂部の食害を比較すると、伊吹山の方が被害が軽微に見える。しかし、山体崩壊という目で見ると、伊吹山の方が格段に進んでいる。昨夏崩壊した登山道周辺を見ると、これまでの人の往来も効いているのであろうが、最も裸地化が進んだ急勾配の場所であることが分かる。復旧作業が進められているらしいが、この場所に登山路を継続維持してゆくことは難しいのではないか。」と綴っています。





伊吹山植生復元プロジェクトによる南側斜面の崩壊防止・植生回復について(2024.4)

2023年10月より土砂流失防止対策の試験施工(7合目)が実施されています。→ (伊吹山公設サイトより)


土のうによる土砂流失防止と植生回復

土のう施工がされた状況

シカの食害防止のアーチ式獣害ネット
 ←写真と内容文は、伊吹山公設サイトが公表しているホームページからの引用です。

 現在、滋賀県と米原市で構成する合同プロジェクトチームが設置され、伊吹山南側斜面の崩壊防止・植生回復に向けた有効な施工方法等の検討
 がされ、中長期的な対策が講じられています。


     <試験施工と登山道復旧への険しい道>
       今は、この試験施工区の「植生の回復」と「山体崩壊が再び起こらぬ」ことを祈るばかりです。
      しかし、例え良き結果が得られたとしても、安全・安心できる登山道が確保されることと直接的に結びつけられるとは考え
      られません。藤本氏が「霊仙山からのレポート」で指摘するように、現登山道はもっとも裸地化が進んだ急勾配の場所であ
      ることから、その継続的な維持管理は難しいとも考えられます。つまり今回の試験施行と登山道の復旧は、同時進行できな
      いと言う課題と、登山道入山料の収入減と言う2つの大きな課題が残り、その対策は長期にわたると推測されます。
  





Vol.2 続く
どうする? 持続可能な生物保全の生態管理? 

1. ボランティア団体の高齢化、いつまで頼れるボランティア?
2. あいまいにならざるを得ない山頂の植生地の保護管理方針?
3. ある希少植物生育地は、いつのまにか登山道と化したが?
4. イヌワシ観察で起こった希少植物生育環境の劣化と今後は?