伊吹山のレッドデータ植物
文・写真 筒井杏正 (伊吹山のレッドデータプランツ:順次作成中)

▲花写真にタッチすると全体像が現れます。

このページは,山好きの人,植物好きの人,そして伊吹山好きの人のために,伊吹山地に生育する『激レア植物たち』のほんの一部を紹介する.これら激レアの植物たちは,どのルートから登ろうと,たとえ草の根を分けて進もうが,滅多に出逢えない植物たちだ.しかし,ひょっとすれば,すでに出逢っているかも知れない.ただ,これら激レアたちと出逢うために大切なことがある.それは,探し求める愛しき植物たちの姿形や特徴などの知識を日常的に持ち続けることだ.でなければ,目の前に咲いていても,光り輝いていても分からない.「君の全てを知りたい」と言う情熱がなければ,出逢いの喜びも,発見することの感動も味わうことは出来ない.紹介の植物は,近年,伊吹山地で,著しく個体数が減少,あるいは生育地が確認できなくなった重要な植物たちだ.すなわち,絶滅の危機に瀕しているといった植物を取りあげる.紙面上,多くを取り上げることは出来ないが,二〇二〇年度,環境省がレッドデータカテゴリにあげ,同年度,滋賀県も同カテゴリを公示し,二〇十七年度,岐阜県が改正公示する,最もカテゴリ度が高く,つまり【レッドデータと認められた植物たちの記録写真】である.加えて,自ら出逢った時の体験記として,【伊吹山の激レア雑譚】で生育の現状と激レアに至ったと考えられる要因を探った.筆者としては,このページが,読者の今後の山歩きによって,その個体や新たな生育地を発見するに役立ち,未来に残したい植物の環境保全や生物多様性について関心をもっていただくことを希求する.

▼伊吹山のレッドデータプランツ▼

イチョウシダ(常緑性シダ) イナベアザミ(秋) イヌハギ(夏)
イブキコゴメグサ(秋) イブキレイジンソウ(秋) イワツクバネウツギ(初夏)
エンシュウツリフネソウ(秋) キセワタ(秋) クマガイソウ(春)
コバノミミナグサ(初夏) セイタカスズムシソウ(初夏) チチブリンドウ(秋)
テバコワラビ(夏緑性シダ) ヒナノキンチャク(秋) ヒメヒゴタイ(秋)
ヒロハノアマナ(春) ホソバノツルリンドウ(秋) ルリトラノオ

This page introduces just a few of the extremely rare plants that grow in the Ibuki Mountains, for people who love mountains, plants, and Mt. Ibuki.These extremely rare plants are rare to come across, no matter which route you take to climb the mountain, even if you separate the grass roots.But maybe you've already met them.However, there is something important in order to meet these super rares.The key is to maintain knowledge about the shapes and characteristics of the beloved plants you are looking for on a daily basis.Otherwise, even if it blooms right in front of you, you won't be able to tell even if it shines brightly.If you don't have the passion to know everything about plants, you won't be able to experience the joy of encounters and the excitement of discoveries.If you don't have the passion to know everything about you, you won't be able to experience the joy of meeting someone or the excitement of discovery.

The plants introduced here are important plants of the Ibuki Mountains, whose populations have decreased significantly in recent years or whose habitats can no longer be confirmed.In other words, we will focus on plants that are on the verge of extinction.

Although it is not possible to cover much on paper, in 2020, the Ministry of the Environment placed it in the red data category, and in the same year, Shiga Prefecture also announced the same category, and in 2017, Gifu Prefecture revised and announced the highest category. In other words, it is a [documentary photo of plants recognized as red data].I also wrote about my own experience when I encountered it in [Ibukiyama Super Rare Chats], and explored the current state of its growth and the factors that are thought to have made it extremely rare.

The author hopes that this page will help readers discover individual species and new habitats during their future mountain walks, and that they will become interested in the environmental conservation and biodiversity of plants that they want to preserve for the future.









伊吹山の植物と地質と文学
伊吹山の激レア植物たち
イチョウシダ
 イチョウシダ 銀杏羊歯 
 チャセンシダ科  チャセンシダ属
 学   名  Asplenium ruta-muraria L.
 カテゴリー  環境省準絶滅危惧(NT)(2020)/滋賀県絶滅危惧増大種(2020)/
 岐阜県
絶滅危惧1類(2017)
Copyright(c) of Ansho Tsutsui
伊吹山の激レア植物たちTOPへ
胞 子 常緑性シダ 夏の早い時期に熟す
高 さ 3〜10cm
生育地 石灰岩地に限定され,日当りの良い山地帯の岩穴や岩隙に生育する.生育地が局限され,絶滅の危機に瀕するシダ植物である.
分 布 北海道 本州 四国 九州
形態の特徴
 石灰岩地に点々と自生する常緑性シダ.葉は2回羽状分岐し,長さ2〜7cm,幅1〜3.5cm,裂片は菱形または倒卵形で,ほぼ左右相称,基部はくさび形で,イチョウの葉形に似ている.葉質は厚く,やや硬い.胞子嚢群は長さ1〜3mm,数個が裂片中央に集まる傾向がある.林中またはやや裸出した石灰岩の岩陰に生育する..
伊吹山の激レア雑譚 “イチョウシダ”
 大きな熊ほどの岩の空ろに生えていた.空ろを覗くと緑鮮やかなイチョウ形の小葉が目に飛び込んできた.教えられなければ,気づくことなく通り過ぎただろう.まして,花も咲かなく,実もならない岩陰のシダ植物に誰が興味を持とうか.それは,良き師に教わっての出逢いだった.さらに「絶滅危惧種」ときけば,そのシダは一段と輝きを増す.このように教えられての出逢いは,とても大切だ.そもそも自然の生きものや植物に興味を持ち始めたのは,山歩きの中で,複数の良き師や知識ある友との出逢いが始まりだった.





伊吹山の激レア植物たち
イナベアザミ
イナベアザミ
 イナベアザミ 員弁薊 
 キ ク 科  アザミ属
 学   名  Cirsium magofukui
 カテゴリー  環境省=絶滅危惧2類(VU)(2020)/滋賀県=絶滅危惧増大種(2020)/
 岐阜県=絶滅危惧1類(2017)
Copyright(c) of Ansho Tsutsui
イナベアザミ全体
イナベアザミ02
イナベアザミ03
イナベアザミ04
花 期 10月〜11月
イナベアザミ05
高 さ 1〜2m / 生活型 多年草
生育地 冷温帯の石灰岩地に生えるが,生育地は局限する
分 布 本州 (中部地方,近畿地方=福井県,滋賀県,三重県,岐阜県)
形態の特徴
 深山の湿った谷側沿いに生える.葉は広い長楕円形で長さ60〜80cm,幅20〜30cm.羽状に分裂する.根出葉は開花時には枯れてなくなる.頭花は大きく直径3〜4cm,総苞は長さ約2.5cm,紫色,横向き,または点頭して枝先につく.総苞は鐘球形,総苞片は線状披針形で3.5〜4mm,縁に小さな刺があり,長く反り返り粘着しない.筒状花は長さ約20mm.

伊吹山の激レア雑譚 “イナベアザミ”
 深まる秋,谷間を奥深く分け入った.山頂を目前に急峻な崖が阻んでいる.引き返そうとした時,日の射す沢沿いで初めて出逢った.他のアザミと明らかに違い,大きな頭花が下向きに咲いている.三重県いなべ市が基準産地でその名がつく.出逢ってから十数年後,再び訪ねたが,山道は大規模な土砂崩れが起きたのか,寸断されていた.そして,生育地も渓谷に飲み込まれていた.以来,この激レアとは出逢えていないが,一期一会の素晴らしい出逢いだったからこそ,いつまでも心の裡に刻まれている.



伊吹山の激レア植物たちTOPへ

 HOMEへ







伊吹山の植物と地質と文学
伊吹山の激レア植物たち
イヌハギ
マ メ 科
 ハギ属
 学   名  Lespedeza tomentosa
 カテゴリー  環境省絶滅危惧2類(VU)(2020)/ 滋賀県=絶滅危惧種(2020)/ 準絶滅危惧種(2017)
Copyright(c) of Ansho Tsutsui




花 期 7〜9月
高 さ 60〜150cm  多年草(落葉低木)
生育地 山地や河原,海に近い砂地や石灰岩の岩場に生える.
分 布 本州 四国 九州 沖縄
形態の特徴
 向陽の疎林の林縁,路側法面や草地などに生育する多年草で,茎は直立または斜上し,高さは60〜120?になる.茎の下部は木化する.全体に黄褐色のやや硬い綿毛が密生する.3出複葉で,小葉は広楕円形.花期は7〜9月,長い総状花序に多数の白色の蝶形花をつけ,結実性は高い.
伊吹山の激レア雑譚 “イヌハギ”
  かつては山地や河原など,どこにでも生えていた.ただ,万葉集等で詠まれる「萩」がもつ女性的なイメージとは異なり,茎はがっちり太く,しなやかさに欠けている.開発や整備事業では,邪魔ものとして無造作に刈りとられた.結果,激レアとなった.写真は,「伊吹山薬草センター」に移植されたもの.ときに人は,観賞や園芸用に野生種を採取し,不要とならば簡単に排除する.






伊吹山の激レア植物たち
イブキコゴメグサ
 イブキコゴメグサ 伊吹小米草
ハナウツボ科  コゴメグサ属
 学   名  Euphrasia insignis ssp. iinumae
 カテゴリー  環境省絶滅危惧2類(VU)(2020)/滋賀県絶滅危惧種(2020)/
 
岐阜県絶滅危惧1類(2017)
Copyright(c) of Ansho Tsutsui
花 期 8月〜9月
高 さ 10-20cm
生育地 石灰岩地の礫地や乾いた草地
分 布 滋賀県( 伊吹山,霊仙山)
形態の特徴
 伊吹山と霊仙山の石灰岩地の岩礫ややや乾いた草地に生育する.茎は直立し,上部は多く分枝し下向きに短毛がある.葉は長さ7〜10mm.幅は5〜7mmで毛が鳴く,鋸歯は2〜4対で鈍頭.花の萼は,長さ約4mmでほぼ等しく4裂し,裂片は披針形で鋭頭.筒部よりやや短く,花冠は長さ7〜9mm.下唇は大きく開出する.さく果は萼よりわずかに短く,種子は楕円形.
伊吹山の激レア雑譚 “イブキコゴメグサ”
 山頂から北尾根の石灰岩地の草地や岩礫に生える.草丈は低く,花は可憐だが群れて咲く姿は逞しい.ただ,北麓の日当りの良い谷側の草地の群生は,来山者の往来が激しく踏圧に絶えられず断崖に追いやられ激減した.それは,わずか十数年の出来事.この経緯を目の当たりにすると,人は貴重な自然を未来へつなぐことのできない,もっとも不自然な生きもので破壊者かも知れない.

山頂に旧伊吹山測候所があった頃の
群生は解体後の今は見ることはできない
2008.09.07

伊吹山の激レア植物たちTOPへ







伊吹山の植物と地質と文学
伊吹山の激レア植物たち
エンシュウツリフネソウ
 エンシュウツリフネソウ 遠州釣舟草
 ツリフネ科 ツリフネ属
 学   名 Impatiens hypophylla var. microhypophylla
 カテゴリー 絶滅危惧1B 類(EN)=環境省 2020年/ なし=滋賀県 2020年 / 絶滅危惧2類=岐阜県 2015-2017年
Copyright(c) of Ansho Tsutsui
花 期 7〜10月
高 さ 30〜80cm
生育地 山地の林縁や草地
分 布 北海道,本州,四国
形態の特徴
 ハガクレツリフネの変種.山地の林内や林縁に生える1年草.ハガクレツリフネより花は小さく,葉の幅が狭いのが特徴.茎は直立し,分岐する.茎は鋸歯があり,上部の葉ほどおおきい(長さ4〜13cm 幅2〜5cm).花序は葉腋から出るが,すぐ下に曲がって葉の裏に隠れるように下垂する.花は長さ15〜20mm.果実は長さ1.5〜2cm.熟した果実に触れると音がしてはじける.
伊吹山の激レア雑譚 “ホソバノツルリンドウ”
 激レア中の激レアだ.岐阜県側山麓の林縁に生える.葉の下に花が咲くハガクレツリフネの変種だ.色は淡く,気品さが漂う.しかし今,その生育地は荒れに荒れてしまった.
そして数年ほど前,優雅な姿は消えた.要因は,気候変動や獣害などにあるが,なにより絶滅の危機を知りながら,無為無策だったこと.
草本類は,動物などの生きものに比べると,地権者や境界区分の問題があり,保全管理の難しさを感じる.このような人間社会の理由で対応が遅れ,さまざまな激レア植物は,年々増加している.

既知生育地の周辺では,この日撮影以降,
確認できていない.2010.09.07撮影.







伊吹山の植物と地質と文学
伊吹山の激レア植物たち
キセワタ
 キセワタ 着せ綿 
 シソ科  メハジキ属
 学   名  Leonurus macranthus
 カテゴリー  環境省絶滅危惧2類(VU)(2020)/滋賀県=絶滅危惧種(2020)/
 岐阜県
絶滅危惧1類(2017)
Copyright(c) of Ansho Tsutsui




花 期 9月中旬〜10月中旬
高 さ つる性 / 生活型 多年草
生育地 山地の林縁や草地
分 布 北海道,本州,四国
形態の特徴
 多年草.草丈50〜100 cm,直立する.根茎は木質する.葉は卵形または狭卵形,長さ4〜11 cm,幅2.5〜7 cm,欠刻状の粗い鋸歯があり,鋭頭または鋭尖頭,基部は広いくさび形またはやや切形で0.5〜3 cmの葉柄がある.花は上部の葉腋にかたまって付き,萼は長さ15〜18 mm, 5浅裂して裂片は刺状に尖る.花冠は紅紫色で長さ2.5〜3 cm,外面は密に白毛があり白く見え,下唇の中央裂片は下に曲がる.
伊吹山の激レア雑譚 “ホソバノツルリンドウ”
  滋賀県では,伊吹山に限られる.中腹のススキの群生など草地の縁に生える.初秋になれば,日当りの良い草地から丈を伸ばし,淡紫色の花が,先端の葉腋からぽつぽつと咲きはじめる.九月中旬には,さらに丈も高くなり,よく目立ってくる.メハジキに似るが,茎は太く硬く,四角ばっている.登山道脇に生えるため,園芸用に採取されることもある.また,最近のシカの食害や気候変動による土砂流失や崩落でその生育地は,狭まっている.

開花前 2016.8.16








伊吹山の激レア植物たち
イブキレイジンソウ 
 イブキレイジンソウ 伊吹伶人草 
 キンポウゲ科  トリカブト属
 学   名  Aconitum chrysopilum
 カテゴリー  環境省準絶滅危惧(NT)(2020)/滋賀県絶滅危惧種(2020)/
 岐阜県
絶滅危惧2類(2017)
Copyright(c) of Ansho Tsutsui





花 期 8月中旬〜10月
高 さ 30刈ら0cm / 生活型 多年草
生育地 山地の林縁や草地
分 布 伊吹山(固有種)
形態の特徴
 伊吹山の石灰岩地に生える多年草で,山頂部から北麓の静馬ケ原・北尾根・笹又上部の草地に生育している.茎は直立し,根出葉に長い葉柄があり,裂片は浅裂,または粗い鋸歯がある.花は,総状花序をつくり,一つの花房には5〜15個の花をつける.特徴は,レイジンソウに比べて全体に多毛で茎,葉柄,葉の裏面に開出毛がある.

伊吹山の激レア雑譚“イブキレイジンソウ”
 伊吹山固有種だ.かつては中腹から山頂,北尾根の登山道脇に見られ,花の形が独特でよく目立っていた.シカの食害が目立ちはじめると,非嗜好性植物であるが,食害の二次的被害か,山腹の地盤が緩み,大雨等で生育地の土砂流失や崩落が起こるようになった.また,初夏の登山道の草刈は,成長期にダメージをもたらし,わずか20cm前後の個体や未開花に終わるものが多くなった.これら二重三重の複合要因が,伊吹山の生態系全体にもたらす影響は,甚大である.


伊吹山の激レア植物たちTOPへ







伊吹山の激レア植物たち
チチブリンドウ
 チチブリンドウ 秩父竜胆 (別名ヒロハヒゲリンドウ)
 リンドウ科  シロウマリンドウ属
 学   名  Gentianopsis contorta
 カテゴリー  環境省絶滅危惧1B 類(EN)(2020)/滋賀県絶滅危惧種(2020)/
 岐阜県
絶滅危惧2類(2017)
Copyright(c) of Ansho Tsutsui
花 期 8下旬〜9月下旬

良く分枝した個体が重なり生える.
2013.09.20撮影
高 さ 8〜15cm / 1年草または越年草(一部の個体は多年生)
生育地 石灰岩地の草地や岩礫地
分 布 本州(秩父山地,南信州西麓,伊吹山)
形態の特徴
 石灰岩地の草地や礫地にも生える.茎は直立し,単一わずかに分枝し,円く狭い膜質の翼がある.葉は対生し,卵状楕円形で長さ10-15 mm,幅4-9 mm,先は円く,基部はくさび形になり,なかば茎を抱き,下部の葉ほど小型になる.花は枝先に1個づつつき,花柄は短く,萼は花冠とほぼ同長.花冠は薄紫色で筒状鐘形で5裂し,長さ2 cm前後,4裂片は卵状楕円形で長さ約5mm,全縁で,副片も内片もなく,渦巻状になる.花冠内面の基部の近くに花糸と交互に長さ0.6-1 mmの円錐状腺体がある.花柱はごく短く,柱頭は2裂し,とさか状に反り返る.

※シロウマリンドウ属の種とは異なり,維管束植物の80%に存在するアーバスキュラー菌根※の1型が存在する.※土壌栄養分の効率的な利用に重要な役割を果たし,農業生産では,微生物資材としても利用されている.

伊吹山の激レア雑譚 “チチブリンドウ”
 伊吹山で発見されたのは,1996年(上野達也氏).それは,激レア中の激レアだった.その後,2008年から毎年,モニタリング調査を始めた.その頃,一定区間で225個体を数えた.

しかし,2014年をピークに激減した.減少要因は,気候変動,シカの食害など複合的であるが,加えて人間活動による踏圧は大きかった.伊吹山は自然豊かな山であるが,一方,観光と鉱山の山である.すなわちステークホルダーが存在するゆえに「自然と人間との共存」を図ることだが,それは一筋縄にはいかなかった.そして本種は今,人や獣が踏込めない岩棚の礫地や草地に細々と命をつないでいる.

伊吹山の激レア植物たちTOPへ








伊吹山の激レア植物たち
ヒナノキンチャク 
 ヒナノキンチャク 雛の巾着 
 ヒメハギ科  ヒメハギ属
 学   名  Polygala tatarinowii
 カテゴリー  環境省絶滅危惧1B 類(EN)(2020)/滋賀県絶滅危惧種(2020)/岐阜県絶滅危惧1類(2017)
Copyright(c) of Ansho Tsutsui


花 期 8中旬〜9月

既知の個体群は,登山道脇にあり,
地盤の乾燥化等により土砂流失が起きている
高 さ 7〜15cm / 生活型 1年草
生育地 石灰岩山地の草地.花崗岩地でも確認.
分 布 本州(福島県以西),四国,九州
形態の特徴
 茎は基部で分枝し,隆起線があり,全体無毛.葉は互生,葉身は卵円形〜楕円形,長さ1〜3cm.先は尖るか円いものまで色々あり,基部は急に狭まり葉柄に沿下し,鋸歯はなく縁に毛がある.葉柄は長さ2〜8mm.花は茎頂や枝先に総状花序にとなり,長さ約2mmの小さな多数つけ,花序柄を入れると長さ約8cmになる.花弁は3個,淡紅紫色,基部側の2/3は合着し,下の1個の竜骨弁は先が袋状で円く,黄味をおびる.萼は5個で緑色,3個は小型で卵形,長さ約1mm,花後脱落し,2個の側萼片は狭倒卵形〜へら形で花弁状,長さ約2mm.子房は円形,径約1mm以下.花柱の先端はロート形で裂片がある.果実(?|果)は普通片側につき,扁平な円形で,長さ2〜3mm,伏した軟毛が疎らにあり,翼は幅0.2〜0.5mm.種子は楕円形で黒色,長さ約1mm,表面に微毛があり,先端に小型の仮種皮がある.

伊吹山の激レア雑譚 “ヒナノキンチャク”
 美しく可愛い.ある登山道を辿った人なら,横切っているかも知れない,が,その生育地は局地にある.わずか10cm前後で,植物への好奇心がなければ,咲き誇っていても気づくことはない.そして,度々踏まれることもある.既知の生育土壌は乾燥化で土砂流失が起きている.守るには,登山道を曲げるしかない.






伊吹山の植物と地質と文学
伊吹山の激レア植物たち
ホソバノツルリンドウ 
 ホソバノツルリンドウ 細葉の蔓竜胆 
 リンドウ科  ホソバノツルリンドウ属
 学   名  Pterygocalyx volubilis
 カテゴリー  環境省絶滅危惧2類(VU)(2020)/滋賀県希少種(2020)/岐阜県絶滅危惧1類(2017)
Copyright(c) of Ansho Tsutsui
花 期 9月中旬〜10月中旬
高 さ つる性 / 生活型 多年草
生育地 山地の林縁や草地
分 布 北海道,本州,四国
形態の特徴
 茎は細く緑色.節間は5〜10cm.葉は対生し,葉柄は葉身の基部が次第に細くなり,葉身との境界は不明瞭で,披針形〜卵状披針形.葉脈1〜3本,全縁,先は長く尖り基部は細くなり,葉裏は,ツルリンドウのように紫色を帯びない.花は葉腋または茎頂に単生または集散花序につく.花柄は,長さ5cm未満で細い.花冠は筒状で4裂し,副片はない.
伊吹山の激レア雑譚 “ホソバノツルリンドウ”
 見つける意思をもってしても,やすやすと見つからない.ツルリンドウに似るが,茎も葉も細く,葉の裏は紫色は帯びなく,全体に華奢である.ススキやクサボタン等の茎や低木の小枝に巻きついて成長する.巻きつくものがなければ,とぐろを巻いて地を這う場合もある.写真のように茎葉が緑一色だと,草原をかき分けても分からない.草丈の目線になって,腰を落とし,ゆっくりじっくり探せば,出逢えるかも知れない.また,チチブリンドウと共存するといわれ,ともに発見することもあり,二重の喜びと感動をもたらしてくれる.

草刈作業後,伸びた個体で,
巻き付く枝などがなくなり,地を這う
伊吹山ドライブウェイ沿道 2014.10.11






伊吹山の植物と地質と文学
伊吹山の激レア植物たち
ヒロハノアマナ 
 ヒロハノアマナ 広葉の甘菜
 ユリ科  アマナ属
 学   名  Amana erythronioides
 カテゴリー  環境省絶滅危惧2類(VU)(2020)/滋賀県=絶滅危惧増大種(2020)/
 岐阜県
絶滅危惧1類(2017)
Copyright(c) of Ansho Tsutsui
ヒロハノアマナ01
ヒロハノアマナ02
ヒロハノアマナ03
ヒロハノアマナ04

花 期 3〜4月
高 さ 15〜20センチ
生育地 日当りの良い草地や落葉低木林の林床に稀に生える
分 布 北海道 本州(関東〜近畿) 四国
形態の特徴
 雑木林や日当たりの良い明るい草地に生育し,草丈は20?くらいになる多年草である.葉は中央に白い線が入り幅は1〜2?と広く,線形で長さが30?にもなる.花期は3〜4月で,花茎に1つ花をつける.白い花は花弁が6枚で,紫の筋が入る.日差しがあると花は開く.
伊吹山の激レア雑譚 “ホソバノツルリンドウ”
 4月中旬,中腹の局地に群れて開花する.この頃,来山者は少なく人目に触れることは少ない.ただ,出産を迎えた雌ジカの食欲は旺盛で,芽吹いたばかりのありとあらゆる植物を喰い尽くす.伊吹山のシカの食害は十数年前から始まり,発芽時や開花前の成長期にダメージをもたらす.続いて来山者が増えると,その踏圧や園芸採取により,年々,減少していった.その後,防護柵等が設置され,今は,保護対策が図られている.
ヒロハノアマナ05
2010年頃からシカの食害が著しく防護網が設置されたが
生育環境の劣化に伴い激減している.2010.04.03







伊吹山の植物と地質と文学
伊吹山の激レア植物たち
セイタカスズムシソウ 
 セイタカスズムシソウ 背高鈴虫草 
 ラン科  クモキリソウ属
 学   名  Liparis japonica
 カテゴリー  環境省なし/滋賀県希少種(2020)/岐阜県絶滅危惧1類(2017)
Copyright(c) of Ansho Tsutsui
花 期 7月中旬〜8月
高 さ 20〜40cm
生育地 山地の林縁や草地
分 布 北海道,本州,四国
形態の特徴
 多年生草本.茎の基部はふくらんで偽球茎となり,1〜2年残存して横に並ぶ.葉は茎の基部につき,鞘状のものを除き2個,葉身は楕円形,長さ6〜12cm,幅3〜5cm,先端は鈍頭,基部はくさび形でやや鞘状に茎を抱く.花は花茎の上部に多数がややまばらにつき,多少なりとも紫を帯びた緑色,苞は卵状3角形,長さ1〜1.5mmである.がく片は線状披針形,長さ8〜10mm,先端は鈍頭,側花弁は糸状である.唇弁は倒卵形,長さ7〜8mm,幅約5mm,先は円頭で凸端,辺縁には細歯牙がある.
伊吹山の激レア雑譚 “セイタカスズムシソウ”
 山頂の草原群落の草陰で美しい淡紅色の花を咲かせている.植物好きなら葉形も含め,あきらかにラン科と分かる.花形(唇弁)や側花弁が糸状に伸び,スズムシとの和名も少しうなづける.出逢った時は,草丈も低く,同属のスズムシソウと思われたが,がく片の線状披針形の先端が鈍頭などもあり,セイタカスズムシソウの特徴を備えている.生育環境は,日当りの良い登山道側によく生えることから採取圧も高く,個体数は激減している.盗掘者は,根こそぎ採取し独り占めで鉢植えするか,営利目的で増殖させ,園芸種の山野草として店頭で売りさばく.








伊吹山の植物と地質と文学
伊吹山の激レア植物たち
イワツクバネウツギ 
イワツクバネウツギ
 イワツクバネウツギ 岩衝羽空木
 スイカズラ科  イワツクバネウツギ属
 学   名  Zabelia integrifolia
 カテゴリー  環境省=絶滅危惧2類(VU)(2020)/滋賀県=絶滅危惧種(2020)/
 岐阜県=準絶滅危惧類(2017)
Copyright(c) of Ansho Tsutsui
イワツクバネウツギ01
イワツクバネウツギ02
イワツクバネウツギ03
イワツクバネウツギ04
花 期 3〜4月
高 さ 150〜200cm
生育地 石灰岩地や蛇紋岩地などの急傾斜地の岩場にごく稀に生える,日本の固有種.
分 布 本州(中部地方以西) 四国 九州
形態の特徴
 石灰岩地や蛇紋岩地などに生育する落葉低木.枝分かれが多く,枝には6本の縦溝がある.葉は対生し,葉身は長さ3〜7?の倒卵状楕円形,縁は全縁だが粗い毛が密生し,しばしば切れこむ.5〜7月に枝先に短い花序を出して2〜7個の花をつける.花冠は漏斗状で,白色,先が4裂して平開する.ツクバネウツギ属に似るが,葉柄の基部が膨らんで相対する葉柄の基部と合着する点などが異なる.
伊吹山の激レア雑譚 “イワツクバネウツギ”
 六月初め,山麓はアジサイやスイカズラの仲間が際立ちはじめる.かつてスキーゲレンデであった一角の落葉樹林も色づきはじめる.ここは多様性に富む小さなホットスポットだ.適度な日射しと手入れされた空間が,希少な植物たちをも育んだ.本種は,その林縁の石灰岩の岩場に生える.ただ,一時放置され,コクサギ等の侵入で生育環境が危ぶまれた.が,最近は保護団体に管理されるようになった.
イワツクバネウツギ05







伊吹山の植物と地質と文学
伊吹山の激レア植物たち
クマガイソウ 
クマガイソウ
 クマガイソウ 細葉の蔓竜胆 
 ラ ン 科  アツモリソウ属
 学   名  Cypripedium japonicum
 カテゴリー  環境省絶滅危惧2類(VU)(2020)/滋賀県絶滅危惧種(2020)/
 岐阜県
絶滅危惧1類(2017)
Copyright(c) of Ansho Tsutsui
クマガイソウ
クマガイソウ
クマガイソウ
クマガイソウ
花 期 4月中旬〜5月
高 さ 20〜40cm
生育地 雑木林や常緑樹林,竹林の中に群生する
分 布 北海道,本州,四国,九州
形態の特徴
 根茎は横に這い群生する.茎は高さ20〜40cmになり有毛.葉は3〜4枚で,上部の2枚は扇状に広がり径10〜20cmで放射状に多くの縦しわがある.4〜5月ころ,茎の先に1個の花を横向きにつける.花は径10?で袋状になった唇弁が特徴.和名は『平家物語』の名場面として知られる,一ノ谷の合戦における熊谷次郎直実と平敦盛の故事に由来する.力強く豪快なイメージの熊谷次郎直実の名に見立て,同属のアツモリソウは,平敦盛にたとえたとされる.
伊吹山の激レア雑譚 “クマガイソウ”
 花は,約10センチの大輪でユニークな形をしている.山を歩いていて,突然こんな花が現れたら,誰しも目を見張り魅せられる.そして,思わず持ち帰りたいと言う衝動に駆られるかも知れない.こうして,伊吹山のクマガイソウは,株ごと多くの人に持ち去られ,やがて見られなくなった.写真は,伊吹山麓の民宿の主人が山中から株を持ち帰り,宿の山肌に移植し,増やしたものだ.しかし,民宿はいつの日か廃業となり,その後,誰かが持ち去ったのか,写真のような光景は幻となった.
クマガイソウ









伊吹山の植物と地質と文学
伊吹山の激レア植物たち
テバコワラビ 
 テバコワラビ 手箱蕨
 イワデンダ科  メシダ属
 学   名  Athyrium atkinsonii Bedd.
 カテゴリー  環境省絶滅危惧2類(VU)(2020)/滋賀県=希少種(2020)/岐阜県なし
Copyright(c) of Ansho Tsutsui

花 期 3〜4月
高 さ 15〜35cm
生育地 冷温帯の礫の多い落葉樹林の林床,林縁に生える.
分 布 本州(関東以西),四国,九州
形態の特徴
 夏緑性で地上部は冬に枯れる.根茎は短く這い,葉は混みあって付く.葉は大型で,3〜4回羽状複生,草質である.ソーラスは小型で円形.包膜も小さく,円腎形から偏馬蹄形,辺縁に小さな歯牙がある.サトメシダやオオサトメシダがやや似ているが,それらのソーラスは線形であり,容易に区別できる.本種は,西南日本の山地を中心に中央構造線に沿って分布する植物(襲速紀要素の植物)で耐寒性は強く,垂直的には冷温帯から暖温帯上部に分布する.
伊吹山の激レア雑譚 “テバコワラビ”
 山頂部の登山道やドライブウェイ沿道など生える.一見すると普通のシダ植物のため,来山者は知らず知らず通り過ぎて行く.絶滅危惧種と知らされても,さほど興味を抱く人も少ない.しかし,十数年前からのシカの食害および異常気象による豪雨等による土壌流失などが起こり,生育環境は悪化している.

山頂東登山道の草地の局地に群れて生える →
近年のシカの食害やその踏圧によって生育土壌は悪化している 







伊吹山の植物と地質と文学
伊吹山の激レア植物たち
コバノミミナグサ 
コバノミミナグサ
 コバノミミナグサ 小葉の耳菜草
 ナデシコ科  ミミナグサ属
 学   名  Cerastium furcatum var. ibukiense
 カテゴリー  環境省=絶滅危惧?B類(EN)(2020)/滋賀県=絶滅危惧種(2020)/
 岐阜県=絶滅危惧?類(2017)
Copyright(c) of Ansho Tsutsui
コバノミミナグサ
コバノミミナグサ
コバノミミナグサ
花 期 6〜8月
高 さ 10〜15cm
生育地 中腹から山頂,静馬ケ原,笹又登山道上部の石灰岩地でやや乾燥した草地や礫地に群れて生える.
分 布 滋賀県・岐阜県(伊吹山),山口県(秋吉台)
形態の特徴
 小型の1年草.伊吹山山頂部の石灰岩地の草地や礫地に生える.茎は叢生し2列に腺毛がある.葉は線形または線状披針形で,1〜2cmで少し毛がある.花は集散花序につく.花柄は7〜14mm.萼片は5個,長楕円形長さ5〜6mm,鈍頭.花弁は5個長さ7mm,深く2裂し,裂片はさらに浅く2裂する.本種は,高山帯に分布するミヤマミミナグサの変種と言われ,やや大きいのが特徴であり,伊吹山の特産種とされている.
 また,2003年(H15)に,山口県秋吉台の鉱山跡地で数百株が群生していることが確認された.しかし,どのように着床し生育したか明らかではない.
伊吹山の激レア雑譚 “コバノミミナグサ”
  伊吹山に登れば,必ず出逢える固有種でトップクラスの絶滅危惧種だ.ミミナグサと比べると,かなり大きい白花がつく.花期は長く6月〜8月にかけて咲き,目を凝らせば,登山道や山頂の休憩場所などあちこちに生えている.清楚で地味だが,伊吹山でしか出逢えない激レアと知れば,きっと感動し,カメラに収めたくなるに違いない.
コバノミミナグサ




HOME