伊吹山の自然と歴史と登山 (伊吹山ネイチャーネットワーク) 2015年8月 伊吹山自然観察会(伊吹山ネイチャーネットワーク)

「自然観察会」は、自然環境の大切さを知り、保全再生のあり方を探るための一つの活動です。
★開催期日 2015年8月1日(土)
★天 候 晴 体感温度:23〜26度
★集合場所 関ヶ原ふれあいセンター 10:00出発
★観 察
 コース
山頂駐車場11:40 → 西登山口11:00 → 山頂12:30(昼食・休憩)13:30出発 → 東登山道 → 駐車場15:20
(オプションで山室湿原15:30〜17:00)
レポート 幡本眞知子 ・ 環境=筒井杏正
写真:筒井杏正
山頂南側で記念撮影(クリックで拡大)→
★参加者(19名)
筒井杏正 木村達雄 市川克典 土田芳子 夏原京子 安原輝 竹村勝弘 今井道子 高田園子 中井宏行 沢島武徳 岡田康造 植田清和 松原久 堺征夫 堺敏江 角田憲治 幡本秀人 幡本眞知子
 連日照りつける日差しに 下界では気温の最高記録が更新され東海地方は37度〜38度になるとの予想。
山の上は少しは涼しいだろうか?と期待しながらの出発でした。
 本日の観察会には 二つの目当てがあります。
一つは 伊吹山山頂の夏の花を観察すること。
花の山と言われる伊吹山ですが この時期特別に華やかに花が咲きそろうのです。
 もう一つは この頃伊吹山山頂付近で危惧される異変を見て その理由や解決策を考えてみようと言うものでした。

来山客でにぎわう山頂駐車場西登山道口
  私事ですが、初めて滋賀県側登山道から登ったとき8合目あたりで、苦しくて苦しくてばてていました。上から降りてきた登山客が「もう少しだよ。 上は天国のように綺麗だよ?」と本当にその通りでした。
この世にこんなに美しい場所があるんだと感動しました。 花の数 種類も想像以上でした。
ところがこの数年どんどん劣化の途をたどっていて悲しい思いをしています。

山頂周辺を空撮(クリックで拡大)→
撮影:藤本秀弘(2015/05/17)

 事務局から過去のデータや写真を用意してもらって ミニ講演会もします。
 初めに 伊吹山の成り立ちの話を聞きます。歴史をひもとくと日本武尊や織田信長などの名前が出てきて この山は地元の人々の生活と深く関わっていたことが解ります。
 伊吹山の誕生 生活との関わり 地質 ・・・・そのことが伊吹山を作っているのです。

伊吹山の立地環境→
日本海側や太平洋側の気流は、日本アルプスと鈴鹿山脈にはざまれ
琵琶湖が横たわる列島の凹地を流れ、伊吹山山頂にぶつかる。
このことから、夏の山頂は、晴れていても雲に覆われる日が多い。

 講義を聞いてから西登山口から登っていきます。
今日は良いお天気ながら 一寸遠望が利きません。
「思ったより暑いねぇ」じりじりと照りつける日差しに 滝のような汗が流れます。
会員の中には お花博士がいっぱい。一寸見た目には花が無さそうな登山道も先に進めません。
今咲いていなくても 種を見つければ立ち止まり 蕾を見つければ立ち止まりクガイソウとルリトラノオの見分け方を聞いたり・・・・
伊吹山は昔のような華やかさは無くても やっぱり豊かな植生は残っているようです。
せめてもの救いでしょうか?
【シカの凄まじい食害のお花畑】
 昨年よりさらに凄まじい。ほとんどの植物は膝ほどの草丈。本来は胸辺りまでありました。夏の代表種であるシモツケソウ、シシウド、コオニユリは散々。シカが好まないとされるメタカラコウやマムシグサも被害うけていました。おそらく今、開花しているのは食害の後に伸びた2番目に発芽したもの。未開花で終わる植物も多いと思われます。
                   ▼なんとか開花していた花々

キオン(クリック拡大)
シカが好まないため群生する
同じくサラシナショウマ(蕾)も目立っていた

西登山道の花畑(クリック拡大)
ルリトラノオがクガイソウに代わり咲き出す
ピンクのシモツケソウはシカの食害で大激減

コオニユリ
シカの食害で大激減、今、開花しているのは
食害の後、発芽したもので草丈は全て低い
【シカの食害を被った山頂の植物】
 草原植物群落の草丈が急激に短くなったのは、私の記憶では2008年頃からです。
初めは長梅雨で日照時間が足らないのかと思っていましたが、草丈は胸元辺りから膝丈ほどとなり、今年は、深刻な状況となりました。その対応策として、「伊吹山自然再生協議会」は、夏の代表種シモツケソウ群落が見られるところに防護ネットを設置するようになりました。
【シカの異常繁殖と対応策】
 このようにシカの食害は、伊吹山だけでなく日本各地で同じような状況にあり、今後さらに増え続けるといわれます。この異常繁殖の原因として狩猟者減少・地球温暖化・天敵絶滅などが挙げられていますが、百数十年前にさかのぼるとシカの生息数は同様に多かったことがわかり、一概に上記の原因に妥当性がないといえます。このことから、人間の土地利用の変化が大きく効いているとも言われます。しかし、結果的には、人間がもたらしたものとなり、その対応策は、防護網設置や殺処分ばかりでなく、その原因と生態系のあり方を注意深く見極めて対処することが大切と考えられます。しかし、防護網の設置は、今や広大な山全体の範囲に設置しなければならないのかも知れません。が、追いやられたシカ群は、他の地に侵入し、また、大きな害をもたらすのでしょう。
【伊吹山の保全対策】
 なお今、伊吹山の保全活動は、シカ同様にふさわしくないものは単純に「駆除」するという方法がとられています。例えば、激減したシモツケソウ群を再生するため、草丈が高く日照を遮り繁茂するフジテンニンソウやアカソ等を徹底駆除すれば良い。踏み跡植物のセイヨウタンポポは、生育できない環境(草原)を増やすのではなく、とにかく根こそぎ駆除すれば良い。また、来山客が往来する場所に生育する植物は、たとえ希少種であっても邪魔だから他の地に移植すれば良い。と言う単純な手法と人間の奢った得手勝手な横暴な考えが優先しています。自然再生を目的する上において最も大切なのは、駆除するにしろ、保全するにしろ、何十年、百年先の生態系の良好な循環を考えた手法を順応的に進める必要があると考えます。このために、時系列でとらえたモニタリングの定期的な実施は欠かせないものとなります。しかし、この調査費用を惜しむ人がいることも嘆かわしいことです。(下写真は、食害の一例)

クガイソウ
発芽時の小苗は食べられたか?
2番めの発芽か?花芽はまだつけていないか未開花で終わるか?。

ヤマホタルブクロ
これも食害。草丈が短く
開花したが元気がない。
全体的に個体数が少ない。

オオマムシグサ
通常なら80cmほど
結実しているが腐食しつつある。
赤く熟した実にならないだろう。

フジテンニンソウ
シカが好まないとされたため、
繁茂しシモツケソウ群の成長を
妨げたと言われていたが?
【今夏、異様に少なく感じた植物】
・フジテンニンソウ=シカが食べるのを避けたために増えた忌諱植物として繁茂しているが、アカソとともに喰われている。(上右写真)
 
忌諱(きい)植物=シカが好まないため増殖した植物のこと
・メタカラコウ=シカの忌諱植物としてあげられ、昨年まであちこちに約1mの草丈を伸ばし開花していた。しかし、発芽時の若葉は喰い尽くされ、今の草丈50cm以下は、二番目の発芽で十分に開花していない。
・ノリウツギ=山頂登山道には、今頃まっ白な花をいたるところで咲かせていた。2008年頃、多すぎるといって東登山道にあったものが通行の邪魔、また他の植物の成長を阻害するとかなり伐採された。しかし今は、遠くでは見られるが山頂登山沿道で開花したものは異常なほど少ない。
・キバナノレンリソウ=信長の薬草園を証すという450年前の帰化植物。昨年はあちこち咲いていたが見当たらない。
・オオヨモギ=”いぶきもぐさ”として百人一首にも詠まれるほどで、胸丈ほどに成長していた。今は膝丈ほどだ。
・イタドリ=草丈が高くシモツケソウなどの成長を阻むと駆除の対象ともなった。が、今は膝丈ほどだ。
・アザミ科=ミヤマコアザミ(少ない)タムラソウ(見当たらない) ・フウロウソウ科=かなり少ない・
※結論として、シカの嗜好植物調査を再度実施する必要があり、その原因も探らなければならない。

山頂で 景色を眺めながら食事をします。
 昼食タイムは、山頂南側の琵琶湖の雄大な風景が望める場所。青空の下だが湖岸は霞に煙ってしっかり見えないのは残念。しかし、平地とは7〜8度の温度差があるため、吹く風は幾分さわやか? でも、平地は35度。ここでも26〜27度はありそうです。
【美味しいキノコ汁】
 この、昼食には観察会世話人の幡本会員が、キノコ汁を用意してくれました。実に美味しい! このサービスは、いつまにか観察会の恒例となっていて、本当に嬉しくも美味しいひとときとなっています。

アキアカネとルリトラノオ
赤とんぼの乱舞が見られます。  右上写真=ルリトラノオの花の先端にとまったアキアカネ
これは、平地の暑さを逃れ、高山へと避暑にやってくるというアキアカネの習性です。今夏は、各地で35度以上が5日連日で続くという記録的な猛暑です。お盆を過ぎ、平地が涼しくなると、また平地に戻ります。今は、山頂で栄養を十分とって成熟し、秋の産卵の季節を迎える準備をしているのです。
【過去の夏の花畑と比較れば・・】

今年、オオバギボウシ群生が全く見られない(右写真と比較)←

← オオバギボウシ群生(2006/08/02)
 ↑昼食は、山頂から南斜面を見下ろす場所。 右の写真は、↑同じ南斜面を2006年8月2日に撮ったもので、ここではオオバギボウシの群生が見られていました。しかし、一昨年からシカの食害にあい、今夏はまったくその白い花の影すら見ることができません。

今年の山頂お花畑  ←

← 2008/08/02の山頂お花畑
 ↑今日(8/1)の山頂お花畑です。右は、2008年同日に撮ったものです。ここでも夏の代表種シモツケソウ、そして山の番人のようにすっくと立っていた真っ白い花のシシウドは、とても草丈が低く、番人になれそうもありません。
 しかし、山頂の北の彌勒堂に咲くイブキジャコウソウは元気でした。(右写真)
 これは、香辛料のタイムと同じ香り、木本ですが丈は5〜10cmで、鼻が敏感なシカは苦手なため、残ったと思われます。
 しかし、今夏は目立つ色が無い世界にピンクがとても綺麗。一寸押しつけて麝香(と思われる)シソ科の爽やかな匂いを皆さんで嗅ぎました。※東登山道下り直前にも見られました。
 昼食を終え、一等三角点のある山頂で記念写真。(ページ最上段掲載)
その後、東登山道を下ります。左手に防鹿網が張り巡らされています。劣化の状況は変わりません。
そして、美しかったシモツケソウの群落は姿を消していました。
東登山道の花畑の現状

← 東登山道のお花畑(2012/08/04)
 写真↑は、今日の状況(クリックで拡大)。右写真は、2012/8/4に撮影(クリックで拡大)。とても同じ場所とは思えないかも知れませんが、わずか3年前は、ご覧のように植物の多様性が見られました。今は、奥の方に茶色く見えるのは、ショウジョウスゲ、手前はシカの食害にあった草丈の低いフジテンニンソウ。見られなくなった主な種は、シモツケソウ、メタカラコウ、ヨモギ、クガイソウでした。
 東登山道中腹にあるドリーネ近くには、数年前にニッコウキスゲをシカの食害から守るためネットを設置した場所があります。(右写真)このネットは、冬は積雪のため撤去します。ニッコウキスゲの開花は、6月下旬から7月初旬のため見られません。
 
 今日は参加者の中に 大学の卒論で伊吹山の動物の研究やこのネットの植生調査を行っている学生がいましたので 彼に話を聞きました。 ネット内のニッコウキスゲの個体数は20数株あり、ネット設置の成果が出ているとのことでした。
 本会には、もう一人の大学生の会員がいて、伊吹山と人々の暮らし関わりなどの卒論に挑んでいます。
若い人が こうして伊吹山のあり方に心を注いでいてくれることは嬉しい限りです。

東登山道中腹、ドリーネ近くの防鹿網の成果は?
 東登山道は、そろそろ終盤です。
駐車場近くの左手上方、毎年おなじみの極早稲のイブキトリカブトが早くも咲き誇っています。秋の代表種らしく紫の大輪です。私は、秋の代表種として咲くまっ白な穂のサラシナショウマが花嫁のウエディングドレスなら、この紫の大輪は、さながらに熟女のナイトドレス、といった表現がふさわしく感じます。しかし、ともにキンポウゲ科の毒花。さすがシカも手(口)を出さないようで、この秋の純白と真紫が咲きそろった光景が楽しみです。
最後に、とても悲しくやりきれない出来事。

今日の猛禽類観察者(今年はDW方針で防護網は設置できない)

 昨年、同じ場所に踏込み防護網を設置(2014/06/01)
このことで絶滅危惧種は、今までにない回復を見せた。しかし・・
 ↑この場所は、本日、山頂駐車場近くのドライブウェイ沿道のガードレール外側で猛禽類を観察する人たちです。ここには、山頂では見られない国レベルの絶滅危惧植物が生育している場所です。これらが絶滅の危機に瀕しているため、昨年、伊吹山自然再生協議会と伊吹山ドライブウェイが話し合い、絶滅危惧種を保全し、人の踏込みを防ぐために防護網を設置しました。このことで、絶滅危惧種は、今までにない回復を見せ大きな成果を得ることができました。
 しかし、この6月突然、伊吹山ドライブウェイ側が防護網の設置は許可しない、と一方的に通達してきました。
これに対し、伊吹山自然再生協議会は、地権者であるドライブウェイに対し、なにも対処できない状態が続いています。
ただ、ここは自動車道であることから、歩行(道路法)は禁じられていて、断がいその他自動車の走行上危険な箇所に、危険の防止に必要な構造の防護さくその他の防護設備を設けたものでなければならない、という一般自動車道規則(国土交通省)もあります。ドライブウェイ側は、猛禽類観察者の道路往来を黙認しているように思われます。

<道路法および種の保存法>
※(道路法)自動車専用道路は自動車による以外の方法により、通行してはならない。すなわち歩行者、軽車両、小型自動二輪車、ミニカー、(道路交通法上の)原動機付自転車は一切通行できない。
※(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)
(個体等の所有者等の義務)
第七条  希少野生動植物種の個体若しくはその器官又はこれらの加工品(以下「個体等」と総称する。)の所有者又は占有者は、希少野生動植物種を保存することの重要性を自覚し、その個体等を適切に取り扱うように努めなければならない。