伊吹山を知る山と人間学の本(伊吹山ネイチャーネットワーク) 縄文時代の伊吹山麓:高橋 順之(伊吹山ネイチャーネットワーク)


2. 縄文時代の伊吹山麓:高橋 順之
■最初の足跡
 平成二年(一九九〇)、伊吹山麓米原市上野の水舟(小字名)のあぜ道に放り出された石ころのなかから、一点の石器が見つかりました。先端と根元の部分が少し欠けていますが、まぎれもなく石で作られた大型の槍先です。約一万年前の旧石器時代終わりごろの、伊吹山麓最古の人の生活道具です。このころはきびしい氷河期の最後の時代で、上野の石槍はかなり大きいことから、日本列島では、すでに絶滅してしまった大型の草食性哺乳動物を狩猟していたと考えられます。
 伊吹山に向かいあう霊仙山の山頂では、平成二八年(二〇一六)七月に、縄文時代草創期の有舌尖頭器が拾われました。大昔、伊吹や霊仙の山中を縦横にいきかう狩人の姿が想像されます。
■原始のアルピニスト
 伊吹山の山頂では、昭和一二年五月、九月、十月に縄文時代の石鏃(矢じり)が五点拾われたのを皮切りに、測候所の職員や山小屋の経営者によって、これまでに一四点を越える石鏃と一点の石のナイフ、石を割ったくずが見つかっています。山頂には窪地や湿地があり、伊吹山の鳥獣が集まる猟場だったのかもしれません。伊吹山への最初の登山者は縄文人なのです。平成一八年(二〇〇六)六月には、四合目でも石鏃が見つかり、山麓の縄文人が盛んに山に登っていたようすがうかがわれます。
 一方、全国でも山の頂上や、高山の山頂近くから石鏃が出土した例があります。比叡山や白山、八ヶ岳、富士山などで見つかっていて、これらの山は、いずれもとても美しい姿をしています。もしかしたら、狩りの落としものではなく、山への原始的な信仰をあらわす遺物かもしれません。

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