平成14年夏のある朝、勢いよくキッチンの蛇口をひねると洗剤箱の中にうごめく黒いものがある。思わず手を引っ込めよく見ると、どうもコウモリらしい。
 この辺りは夏の夕暮れになると夜空を乱舞する。昨夏も三階の風呂場に舞い込み、バタバタしているところをなんとかつかみあげ放したことがある。

 しかし、今回のコウモリくんは、すっかりずぶ濡れになってしまった。

 おまけに、金タワシに足をからめている。無理に離そうとすると金切り声をあげ鋭い歯でかみついてくる。やむ得ず洗剤箱ごと段ボール箱に入れる。
 しかし、コウモリを捕獲するには環境省の特別な許可が必要だ。触るだけで違法な行為になってしまう。(関連ページにリンク)
 でも、どうしょう、かなり弱っている。
そうだ、同じ自然観察会会員である多賀博物館の阿部さんなら、なんとか応えてくれるはず。即、電話をした。
 阿部氏:「弱っているなら、そのままにして今日の都合良いとき持参してください。大人だったら、大丈夫だと思いますよ。」

 私:「勤務のため、夕方になるでしょう」とりあえず、様子が気になるため、職場に段ボールを持ち込んでしまった。ようやく職務を終えた夕方、早速、多賀博物館に持参。

 やはり、種はアブラコウモリ。かなり弱り 抵抗もしないがまだ息がある。阿部さんは、まず濡れたコウモリの身体をていねいに消毒剤を含めたティッシュで拭き取ってくれた。
 そしてそのの夜、彼は無事に飛び立った、以下、阿部さんとのメールのやりとりを掲載した。
 少し消毒剤を含ませたティッシュで拭き取ってもらったコウモリくん。

★私(筒井)のメール
 阿部さん、今夜はありがとうございました。勉強になりました。
ところで、お持ちしたアブラコウモリくん、その後元気に回復しました。そして、今夜8時半頃、無事どこかに飛び去りました。
 今となっては、生きながらえる生命が、剥製にされなくて良かったと感涙する思いです。感謝するのは、アブラコウモリくんにたくさん写真を撮らしていただいたこと。そして、阿部さんにコウモリ講義と小さな命の大切さを教えられたことです。ありがとうございました。
★阿部さんのレスメール
 アブラコウモリ、元気になってよかったですね。あの個体は保育中のお母さんの可能性があるので、2頭分の命がつながったことになるのかもしれません。昨年、生後3〜4日のアブラ幼獣を世話する破目になりましたが、残念ながら1ヶ月後に死んでしまいました。かなりデリケートな生き物だけに、偽の母親では無理があるのでしょうね。
 博物館へは病傷鳥獣がよく持ちこまれます(当然生きている物)。死んでいる物なら冷凍庫に放り込んで多少雑に扱ってもどうと言う事はありませんが、生きている物、ましてペットではない野生鳥獣となるとやはりやっかいです。
 持ちこまれても正直なところため息が出てしまいます。職場の同僚からはいつも標本にするために死体の皮を剥いだり解剖したりしているので”動物殺し”と汚名を着せられていますが、生きている物が手元にきた場合は、私にできうるできる限りのフォローを心がけています。やはり、剥製にない、生きている動物の鼓動、体温、呼吸時の胸郭の動きは、命のきらめきを十分過ぎるほど伝えてくれます。
  まあそうは言いながら、標本の収集・蓄積も重要なことではあるのでそのあたりが微妙です。今のところ、私の場合はどんなにやっかいでも生きているときはとことん面倒をみて、どんなに愛着があっても死んだ場合は標本にするというスタンスです。
 彦根の自然環境調査でモグラ類に手がついていないのはその辺のこと(捕獲時に死んでしまうので)があるからです。いずれやらないといけないのは分かっているんですが・・・。
 また、哺乳類関係で何か筒井さんの目にとまるものがありましたらぜひご一報下さい。死体ならば拾いに行きますし、コウモリ・モグラ類などは身近に観察できる機会が少ないので、生きていても記録を残すことができると何かと役に立ちます。
 それでは、よろしくお願いします。